オレンズネロ開発チーム

nero’s PARENT

常に書き続けられること。その価値を、理解してくれる人だけに愛してもらえればいい。ネロって、わがままなヤツなんです。

新しいものをつくりたい
0.2の系譜の先に

「正直に言うと、ここ何年もシャープペンシルの世界には技術革新が起きていませんでした。新しい構造を持ったシャープペンシルというものが、なかなか出てきていなかったのです。だからこそ、ぺんてるにしかできない技術を駆使した新しいものを作りたかった。そんな想いから2014年に生まれたのがオレンズであり、その到達点ともいえるのが、オレンズネロなのだと思います」(丸山)

丸山茂樹

ぺんてるにしかできない技術──。その言葉を象徴するのが、他社の追随を許さない“0.2”という芯径だ。ぺんてるは0.2mmのシャープペンPS1042を1973年に発表。1981年には製図用シャープペンPG2を発売している。ただし、製図用シャープペンは、薄く書くことに特化したアイテムで、より筆圧の高い一般の筆記には不向きといわれていた。その点を克服するために生み出された技術が、芯の減りに合わせて先端パイプがスライドし、芯を保護するオレンズシステムだ。さらにフラッグシップとなるネロには、自動芯出し機構が組み込まれている。丸山はオレンズ発売直後から、その究極形としてのネロの姿をイメージしていたという。

「オレンズシステムと、過去にあった自動製図機(プロッターシャープ)の自動芯出し機構を組み合わせることで、ワンノックで書き続けられる究極のオレンズができるのではないか。そう考えたことが、すべてのはじまりでした。オレンズのヒットにより、パイプで芯を保護しながら書くという書き方が認知されたタイミングだからこそ、シャープペンの新たな可能性に挑みたかったのです」(丸山)

究極のオレンズへの挑戦。その実現に大きな役割を果たしたのが、長年にわたって“ある技術”を追っていた機構設計の専門家・安孫子の存在だった。

様々なシャープペン

連続筆記を支える
ボールチャック機構

機構設計の専門家である安孫子が長年にわたって追っていた“ある技術”とは、一般的なシャープペンに使用される3分割チャック機構とは異なる“ボールチャック機構”だった。チャックとは、製品内部で芯を保持し、固定する役割を果たすパーツのこと。外周面に溝があるチャックとふたつのボールで構成されているのが、ボールチャック機構だ。

「オレンズで使用される3分割チャック機構は、ノックをしないと芯が前進しません。一方、ボールチャック機構には、芯の後退は制御し、芯の前進は許容するという特徴があります。この特徴を利用することで、芯の減りに合わせてスライドする先端パイプの動きに連動して芯を前進させることが可能になります。つまり、1回のノックで芯の使用限界まで書き続ける連続筆記が可能になるのです」(安孫子)

安孫子大慶と伊藤好和

ミクロン単位で調整する
チャックセットのバランス

連続筆記の“肝”となるボールチャック機構。しかし、この技術をネロに組み込むことは、容易ではなかった。

「ボールチャック機構による連続筆記は、技術としては昔からあったものです。ただし0.2,0.3でその技術が実用化されたのは、私が知る限りでは自動製図機に搭載されたシャープペンシルタイプのプロッターだけでした。そこで、まずはプロッターと同じ条件でシャープペンシルを試作。実際に筆記してもらったところ、人によっては線がかすれてしまったり、書き味が悪かったり……。その点をいかに改善するのかを、ネロと向き合いながらずっと追求してきました」(安孫子)

パーツをひとつひとつ吟味しながら、人間の筆圧でも連続筆記できるように調整する──。試行錯誤の日々は、約2年にわたって続いたという。

「たとえば、口金の中には芯の減りに合わせて後退した先端パイプを前進させるためのスプリングが入っています。このパーツが強いと筆記時の抵抗が大きくなり、書き味が悪くなってしまいます。だから、スプリングは可能な限り弱くしなければならなかった。ただし、スプリングを弱くするためには、ボールチャック機構からの芯の前進抵抗を極力抑えることも必要。ミクロン単位で、細部の調整に取り組みました」(安孫子)

ひとつのパーツを変更すると、他のパーツにも影響する。全体のバランスを考慮しながら試作していく日々だったという。

「今まで数々の文房具の構造設計に関わって来ましたが、こいつには本当に苦労させられましたね。でも、普通の製品では、そこまでの時間はかけられない。やっぱりネロは特別なシャープペンなのだと思います」(安孫子)

ネロを手に取って目を細める安孫子の表情に、手をかけた自信作への愛情が垣間見えた。

シャープペンを手にとる開発チーム

ネロの全身に詰め込まれた
技術者たちの誇り

ぺんてるシャープペンのフラッグシップであるネロには、ペン先の機構以外にも最先端の技術が詰まっている。たとえば、細身に設計された軸もそのひとつだ。

「このプロジェクトに関わったメンバーには、ネロに対するそれぞれの想いがあります。なかでも一番議論が白熱した課題のひとつが、細身の軸でした。デザイン的にはできるだけ細くしたいけれど、革新的な技術を詰め込んだシャープペンだけに物理的・技術的な条件もある。互いの想いを両立させるために、ネロには軸側にねじを設けた特別な構造を採用し、細身のシルエットを実現しています。これは生産がとても難しく、通常のシャープペンではあり得ない構造。フラッグシップのネロだからできたことだと思います」(伊藤)

部品加工には機械を使うものの、ネロを組み立てるのは最終的に人の手。ネロは開発者の技術と誇りが詰まった『手作り』のフラッグシップなのだという。

「ネロは高価ですし、もちろん使う人も選びます。だから、その価値を理解してくれる人だけに愛してもらえればいい。ネロって、わがままなヤツなんですよ(笑)。私自身プロトタイプの段階からこいつを使い続けていますが、最初のノック一回で書き続けられる使い勝手の良さは、やはり特別。ネロが、これからのシャープペンのスタンダードを切り拓いて行くとさえ思います。オーナーとなる方には、使って、使って、使い込んでほしいですね」(丸山)

ネロへの想いを語る開発チーム